再び元の場所に戻ると、朝比奈さんは手の甲で目の辺りをぬぐっていた。

そんな彼の様子に、
「どうかしたんですか?」

あたしは声をかけた。

「ああ、ごめんごめん」

そう言ったあたしに向けた朝比奈さんの目は潤んでいて、少しだけ充血していた。

「俺、軽めの猫アレルギーなんだ」

朝比奈さんが言った。

「猫アレルギーですか?」

そんなことを初めて知ったのであたしは驚いた。

「くしゃみが出てきて目がかゆくなるんだ」

朝比奈さんが言った。

「遠いから大丈夫かなって思ってたけど、ダメだったな…。

ちょっと顔洗ってくるよ」

朝比奈さんはそう言うと、水飲み場の方へ足を向かわせた。

水道でバシャバシャと2回ほど顔を洗った後、ジーンズからハンカチを取り出して濡れた顔をぬぐった。
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