あたし、まだ何1つとして朝比奈さんのことをよくわかっていない。

ハンカチで顔を拭いている彼のその姿を見ながらあたしは思った。

朝比奈さんはあたしのことを知ろうと努力しているのに対し、あたしは朝比奈さんに対して何もしていない。

――夫婦だけど、まだそんな関係じゃないでしょ

昨夜に彼が言ったその言葉は、あたしがまだ何も知らないと言うことを意味しているのかも知れない。

あたしが朝比奈さんのことを知らないから、まだ恋人だと彼は言っているのかも知れない。

結婚してから時間は経っているけれど、あたしは夫である朝比奈さんのことを何も知らないんだな。

「小春ちゃん」

朝比奈さんが名前を呼んだので視線を向けると、彼はあたしのすぐ目の前にいた。

「はい」

あたしが返事をすると、
「公園を1周したら家に帰ろうか?」

朝比奈さんが手を差し出してきた。

「そうですね」

あたしは返事をすると、彼と手を繋いだ。
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