「本当にすごいところにきちゃいましたね」

そう話しかけてきた伊勢谷さんに、
「あたしも驚いています…」

あたしは呟くように返事をした。

「僕、浴衣に着替えますけど田ノ下さんはどうしますか?」

「あたしは夕飯が終わってからにします。

その間、バルコニーの方にいますので着替えが終わったら言ってください」

あたしは座布団から立ちあがると、バルコニーの方に行った。

パタンと障子を閉めると、伊勢谷さんの着替えが終わるのを待った。

「やれやれ…」

何がやれやれなのかは自分でもよくわからないけれど、そう呟いて息を吐きたくなった。

窓を開けると、冷たい夜風が入ってきた。

「――朝比奈さん、どうしているんだろう…?」

気がついたら、あたしは彼の名前を呟いていた。
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