朝比奈さんは、あたしが社員旅行に出かけていることを知らない。

伝えなかったあたしもあたしだけど、彼は何も知らないから朝食と一緒に夕飯を作って、そのうえ置き手紙も書いた。

やっぱり、伝えておけばよかったかな…って、ここへきて何であの人の心配をしているのよ!?

「なしなし、今のなし!」

あたしは首を横に振った。

「えっ、何が?」

その声に視線を向けると、浴衣姿の伊勢谷さんがいた。

どうやら着替えが終わったみたいだ。

「いえ、何も…」

あたしは呟くように返事をした。

「そう、いきなり叫んだから何があったのかと思った」

そう言った伊勢谷さんに、
「すみません…」

あたしは謝ることしかできなかった。

もう、朝比奈さんのせいで変なことになっちゃったじゃないのよ!
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