「もう僕は田ノ下さんが本当に心配なんです!

田ノ下さんはかわいいから、1人でウロウロしているところを悪いヤツに誘拐されたらどうしようどうしようって!」

「わわわっ…!?」

伊勢谷さんがあたしの肩に手を置くと、もたれかかるように倒れ込んできた。

「ちょっと伊勢谷さん、しっかりしてください!」

小柄なあたし1人では伊勢谷さんを支えることができない。

「わかりましたから、戻りましょう?

ねっ、戻りましょう?」

伊勢谷さんの肩をバシバシとたたきながら、あたしは声をかけた。

「はいはーい!」

こんな至近距離で、しかも大きな声で返事をするなよ…。

この酔っ払いをどこかへ放り投げたいと言う衝動に駆られたが、仮にも上司である彼にそんなことをする訳にはいかない。
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