こんなにも間近で人の呼吸を聞いたのは、今日が初めてのことだろう。

胸に手を当てると、ドキドキと心臓が落ち着かないと言うように早鐘を打っていた。

朝比奈さんがどんな顔をしているのかわからない。

彼はあたしを見ているのだろうか?

だとしたら、どんな顔でうつむいているあたしを見ているのだろうか?

そんな彼の顔を見ようかと思って顔をあげようと思ったけれど、やめた。

あたしには怖くてできない。

「――し、失礼します…!」

うつむきながら言うと、あたしは逃げるように朝比奈さんの前から立ち去った。

心臓がドキドキと早く脈を打っている。

走っているからなのだろうか?

それとも、先ほどの出来事からなのだろうか?

…どっちなのか、よくわからないや。
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