A girls meeting
電話を終えてからも浮足立っていた景子は、友人の真弓の番号に電話をかける。暇らしい彼女は三コール目で電話に出た。
「もしもし?」
「今大丈夫?」
「今、わたるの家にいるから大丈夫」
真弓が中学一年生の頃からずっと一緒に学校へ登校していたらしい友人の野田わたるの名前を挙げて、真弓は言った。
恋多き乙女タイプの真弓に反し、わたるは少年のようなサッパリとした性格であったが、よほど相性が合うらしく、暇さえあれば一緒に遊んだり電話をしたりしているらしい。
真弓が彼氏と別れても立ち直りひょうひょうとしていられるのは、わたるの存在が大きいのではないかと景子は考えている。
「え?じゃあ電話切る?」
「大丈夫だよ。あいつ今一人でゲームしてるし」
「えー、お泊まり?」
「なんか今日わたるの親が一緒に旅行してるから二人でお留守番してるんだ。まあ、今お互いに全然違うことしてたから、電話全然大丈夫」
本当に一緒に遊んでいる意味があるのだろうかと思ったのだが、電話の先でわたるの「あー、なんか困ってるなら話聞いた方がいいんじゃん?」といった声が聞こえてきたので、景子も遠慮せずに真弓に話をすることにした。
「聞いて、聞いて!高柳先生とデートすることになった!」
「キャー!何それ!」
「ヤバイ。どうしよう」
「ちょっと待って。どうしてそうなった?」
まるで自分の事のように興奮している真弓に、景子はいきさつを全て話す。
「何それ。少女漫画じゃん」
「少女漫画だよ。先生、授業中なのに追いかけてきてくれたんだよ!」
「いいなー。頭ポンポンの下りがもう本当に少女漫画じゃね。いいなー!」
「めっちゃドキドキして、心臓飛び出るかと思った!」
「それは大事にしまっとけ。でも、いいなー。イタリアン」
「ドタキャンとかないかな」
「なんで、そこでネガティブ?」
ケラケラと笑いながら、真弓は言う。
「だって、先生彼女いるかもしれないじゃん。うちが彼女だったら、生徒だとしても女の子と二人でデートとか嫌だもん」
「別にヤル訳じゃないんだから、大丈夫じゃね?」
「えー嫌だよ。ご飯だけでも。ってかヤルとか言うなよ。最低」
景子の最低と言う言葉に対して、電話越しでもわたるから「最低」という言葉が聞こえてきた。
「ごめん、ごめん。でもうちだって、付き合ってる人いたけど他の子と遊んだりしてたよ」
「だから長続きしなかったじゃん」
「確かに一理ある。まあ、でも今まで契約の関係で連絡先とか教えちゃいけないっていう厳しいところなのに、あえて景子に連絡先教えてきた訳でしょ?」
「うん」
「彼女いるような人があえて、ばれたら面倒な相手の女の子を食事に誘ったりしないような気もするけど」
「面倒って?」
「そこ、本当に厳しいんでしょ?」
「うん、なんか、前に他の教室で連絡取り合ってた先生と生徒がいて、先生の方が辞めさせられたっての聞いたー」
「ほら、めっちゃ厳しいじゃん。景子は卒業するからグレーゾーンかもしれないけど、たかがバイトとはいえ、有名大学に通ってる真面目な人があえてそんなリスクを冒した時点で脈はあるような……気がする。話聞いてる限り、高柳先生って真面目な草食系っぽいし」
「そうなのかなあ」
「あ、でも草食系って女の子の事誘わないのか。ロールキャベツ系?」
「何、そのロールキャベツって」
真弓の言いだした台詞に思わず景子は噴き出した。
「草食っぽいのに実は肉食系ってやつ。今見てるネットに載ってた」