A girls meeting
カレンダーに書かれた高柳とのデートの日を景子は心待ちにしており、その日に着て行く為の値段の張る高いワンピースを母親に合格祝いにこじつけて買ってもらい、大学デビューと称して髪の毛を茶髪に染め、化粧も雑誌から必死に覚えた。
練習の成果もあってか、化粧の腕前はまあまあ雑誌に載っている通りに出来るようになり、母親には「女子大生みたい」と言われ、上機嫌の景子だった。
とうとう待ちに待った高柳とのデートの日がやってきて、景子は逸る鼓動を抑えながら待ち合わせである新宿駅の東口改札の前で立っていた。
沢山の人々が誰かを待っている。
景子の目の前を背の高いモデルのような男の子が通り過ぎ、胸の大きい女の子の前で立ち止まった。
そしてその二人は手を繋いで歩き始める。
女の子は幸せそうだ。
「うわー、いいなあ。カップル」
そのカップルを眺めていると、肩をトントンと叩かれる。
「景子ちゃん?」
「あ、先生」
背後から声をかけられ、振り返ると嬉しそうに顔を綻ばせた高柳が立っていた。
「お待たせ。待った?」
「全然待ってないです」
「行こうか?」
「はい」
まるでカップルのような会話を繰り広げながら、景子と高柳は歩き始めた。
東口改札から左折をして階段を上っていると、高柳は景子の方を気遣うように振り返る。
「大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
白い歯をのぞかせてニッコリと笑う高柳。
それに釣られて、景子も笑顔で切り返してから、彼女は少し後悔した。
もしかして、大丈夫じゃないと言えば手をつなげたかもしれないと。
「どこ行くんですか?」
「イタリアンという名のダイニングバー」
「わー、お洒落!」
景子がはしゃぎながら言うと、高柳は楽しそうに
「そういう反応新鮮で可愛いわ」
と悪戯っぽく言った。
景子の顔が赤くなのるを、どこかしら楽しんでいるようにも見える。
高柳がダイニングバーと言った店は、景子が想像していたよりも大人っぽい雰囲気で、店内の至るところに設置されている証明ランプは、どうやらその店の店長がわざわざイギリスから輸入してきた物らしい。
「すごい!綺麗」
「喜んでくれてよかった。ところで景子ちゃん、個室だけど、大丈夫?」
入口のスタッフに席の希望を聞かれた高柳がからかうような口調で確認した。
「大丈夫ですよ、もう大人ですから」
胸を張る景子の腕を取って、高柳がスタッフに案内された席へと連れて行く。
触られた腕が熱っぽく感じた。