A girls meeting
スタッフに案内されて到着したのは、レースのカーテンで区切られているだけの個室だった。
赤いレースの糸で出来ているその壁は、あまりに薄く何故か卑猥に思える。
厭らしいことをする訳ではない。
頭の中では理解していても、その先をなんとなく連想させてしまう空間は、いくらあと一カ月足らずで大学生だと言えども景子には少し刺激が強かった。
「お先にドリンクの方だけでも、ご注文されますか?」
「あ、俺生一つ」
「えっと、私はウーロン茶で」
あっさり注文を終えた高柳に反し、やや緊張気味の景子はメニューの中から必死にノンアルコールの飲み物を見つけ出し注文する。
本当はせっかく大学生になるのだし、お酒を飲みたかったのだが、一度も飲んだことがない為に、酔った状態の自分を知らない景子は店の中だけでも緊張しているのに、高柳の前で失態を起こしてしまった時の自分を想像しその選択は切り捨てたのだ。
「かしこまりました」
上品に頭を下げ、スタッフはレースの壁から遠ざかっていく。
「先生。大人過ぎます。ここ」
「そうかな?」
おしぼりで手を拭きつつ高柳は首を傾げた。
「慣れてるんですね……」
「景子ちゃんも、後一年もしたら、こんな感じの店いくらでも連れてってもらえるよ。モテそうだしね」
「そんなことないです……。なんか、今日の先生チャらい」
「今日は塾の先生じゃないからね」
「えー、じゃあお酒頼んじゃえばよかった」
「未成年はだめ」
「なんでー?」
「だって、俺景子ちゃんの先生だもん」
「さっき今日は塾の先生じゃないって言ってたじゃないですかー」
「それはそれ。これはこれ」
「何それ、ずるい」
「男なんて、みんなそんなもんだよ」
何故か真面目な表情で言う高柳。
目線が絡み合って、沈黙が流れた。
ずっと好きだった人が目の前に座っており、手を伸ばせば触れられる距離にいる。
心臓がバクバクと煩いくらいに、景子を支配した。