A girls meeting


付き合ってから半月。


大学に入学するまで何もすることがない景子と、週一回のサークルと午前中にアルバイトをしている高柳は時間の許す限り毎日会っていた。


答え合わせをすると家も近所であったらしい。


徒歩五分の距離に住んでいるのを景子は知らなかった。


「俺は知ってたけどね」


景子と高柳の実家の近くのファミレスで一緒に、話をしている時に高柳は言う。


景子が完全に塾を辞めたという事もあり、一緒にいても何の問題もなくなったので塾の方に気を使わなくなってもよくなったらしい。


確かに景子が告白した日の数日後に、塾から連絡が入り振替の授業が一コマ残っているとの事だった。高柳はそこも踏まえたうえで景子と会ったらしい。


大人の余裕を感じる景子だった。

 あっという間に時間は過ぎていき、念願のキャンパスライフが明日から始まる。


入学式の前日、緊張して眠ることが出来ない景子は高柳にLINEを送った。


「先生。緊張して眠れない」


ベッドの中でタオルケットにくるまりながらゴロゴロしていると、すぐに既読が付きスヌーピーのスタンプと共に文章が送られてきた。



「俺も入学式の前緊張したかも。心配することないよ」


その一文で何故か安心して景子はうとうとし始めてしまった。


次の日無事に入学式を終えて景子は高柳に電話をする。


「寝れないとか言って、ぐっすり寝てたんじゃん」


笑いながら言う高柳に景子も笑って「先生のおかげだね」と答えた。


幸せな毎日だと景子は考えていた。



高柳とメールをして電話をして、会って笑い合う。


あの日頑張って気持を伝えて本当に良かったと。


授業も始まり、一緒に昼食を食べたりする友人も出来たので、後はサークル活動をどのようなものにするのかを決めるだけだった。


「俺のいるサークル来る?マネージャーが足りないんだよね」


といった高柳の誘いで、景子はバスケットボールのサークル見学へ行く事に決める。



そこで、問題は起きた。


それは「新歓」と呼ばれる新入生歓迎会での事、高柳が開催場所である居酒屋に景子を連れて行くと、サークルのメンバーは好意的に景子を歓迎した。


しかし、酔いが回るにつれて、高柳が席を外している時に一人の男の先輩が高柳の付き合った昔の彼女の話を始めたのである。



「そういえばさ。昔高柳って経済学部の井上先輩と付き合ってなかったっけ?」


「覚えてる!すごい美人でミスに選ばれた先輩だよね?」


 酔っ払っている面々は景子の心情などお構いなしに、昔話に花を咲かせていた。


ここで嫌な顔をしてしまえば、高柳も嫌な思いをするだろうと必死に感情を押し殺す。


「先輩が卒業した後高柳すっげー落ち込んでたよな」


うんうんと頷きながら、その男の先輩は景子に携帯を取り出して写真の画像を見せ始めた。


「ほら、これ井上先輩。すげー、美人だろ?」


画像に写っていたのは、満面の笑みの今よりも若い高柳と美しい顔立ちの女の人。



高柳の腕に組まれた彼女の腕がしっかりと写真に写っている。


「……そうですね」


「あれから高柳誰とも付き合ってないんだよな。あいつまだ引きずってんのかな?」


 パチンとガラパコス携帯を閉じて、その男の先輩はジョッキに半分ほど入ったビールを一気に飲み干した。



私と付き合ってること、誰にも言ってないんだ……。


ウーロン茶の入ったグラスをじっと見つめて、景子は頭の中で嫌でも再生される井上先輩と言われる女性の顔を必死に打ち消そうとする。


「どうした?」


 トイレから戻ってきたらしい高柳が、様子のおかしい景子を発見して心配そうに声をかけた。


返事をしようにも、どうやって気持ちを隠せばいいのか分からない。ドロドロとした感情が景子の中に渦巻いていく。


「今景子ちゃんと一緒に高柳の噂話してたんだよなー?」


何も知らない男の先輩は悪戯っぽく笑いながら、高柳に言った。


「なんだよ、噂話って」


「内緒だよな」


「は……はい」


無理矢理笑顔を浮かべて男の先輩に同意する。


「なんだよ」


 面白くなさそうに言う高柳の表情の変化に景子は気がつかなかった。


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