A girls meeting
「なんだよ。別れ話されるかと思った」
ホっと息を吐いて、高柳は座っていたソファーの背もたれに寄りかかる。
「なんでですか?」
「だって、深刻な感じで話あるとか言われたら誰だって想像すんだろ。最近反応微妙だったし」
「ごめんなさい」
「いや、謝らなくていいよ。元カノの写真とか見せられてると思ってなかったし。その反応は彼女として普通だって。俺だって景子ちゃんの元彼の写真とか見たくねえもん」
「そんなもんなんですか?」
「そんなもん、そんなもん」
そう言って笑った高柳の顔は、気まずくなる前の顔に戻っていた。
「ところで先生」
「ん?」
「私やっぱり先生のいるサークルに入りたいです」
「……マジ?」
「嫌ですか?」
「嫌じゃない、んだけど、さ……」
言葉を濁しながら目線を高柳はそらす。
「はい」
「多分めっちゃ焼きもちやきそうだなって、この間思ったから」
「焼きもちですか?」
「うん」
悪戯がばれた子供のようにシュンとする高柳に、景子は思わず笑ってしまった。
「先生、可愛いー」
帰り道一緒に手を繋ぎながら道を歩いていると、ふいに高柳が景子を抱きしめる。
「先生?」
「あのさ」
「はい」
「井上先輩のことはもう気にしなくていいから。終わったことだし、俺もすっかり忘れてたぐらいだし」
「はい」
高柳の言葉に素直に返事をする。真弓の言った通り、正直に話をしてみてよかったと景子は思う。
今度真弓に会った時には、何か奢った方がいいかなとぼんやりとした頭で考えていると、高柳が言葉を続けた。
「あと、景子ちゃん。そろそろ名前で呼んでもらえるかな」
「名前ですか?」
「景子ちゃん、俺の名前知ってる?」
抱きしめる力を強くして高柳は景子に囁いた。
暗く人気のない夜道で二人を照らしているのは電灯だけである。
普段使っている道なのにも関わらず、全く知らない場所へ迷い込んだ感覚だと景子は思った。
「俊ですよね?どうしてですか?」
どきまぎしながら景子は高柳の下の名前を答える。
「なんか先生って呼ばれてると、キスとかしづらくて……道徳的にどうなのかってやっぱ色々考えちゃうからさ」
「キス……ですか?」
「したくないですか?」
「し……してみたいです」
「じゃあ、俺の事名前で呼んでみて下さい」
「……俊……先生」
「先生なしで」
「しゅ……しゅん」
言い終わるか終らないかのうちに、高柳の唇が景子の唇に重なった。
軽く重なった唇は数秒で離れて行く。
「照れるね」
「はい」
暗くてよく見えないが、景子の顔よりも高柳の顔の方が赤く染まっている気がした。