A girls meeting
絵の具がキャンバスの下方に垂れていく。
垂れた絵の具の行方を目で追いながら、新しい色を足していった。
ああ、そこは赤じゃなくてライトグリーンにすれば良かったかも。
後悔したところで時間は戻らない。
嫌だと思ったら塗り直せばいいのだ。
高校三年生になった春。
自分は突然美大に行くのだと肌で感じ、周囲の動揺を他所に見事ストレートで合格した大学に入って最早三年目。
そろそろ大小構わず、どこかに応募し自分の力量を試さなくては、本当に絵かきとして食べていけるのか金を出してくれている親に証明が出来ない。
篠村佑香は焦っていた。
証明出来ないからと言って一年、二年と遊んでいた訳ではない。
きちんとアルバイトもしていたし、少しずつではあるが賞にも応募していた。
一度だけ最終選考にも残った事がある。
(その賞を企画していた会社は昨月倒産したらしいが。)
しかし、大学三年になって自分の画力を証明出来る産物が手元にあるのかと尋ねられれば、答えられない自分がいた。
更に、将来の夢は?と尋ねられたら「絵を描ければ、なんでもいい」といった中途半端な回答が口からこぼれ落ちてしまう。
気落ちしたまま描いた油絵は自然と、色も薄暗くなってしまうものだ。
手に付着した油絵の具を横に置いてあったティッシュで拭きながら未完成の作品を、目を細めながら眺める。
そして手元に置かれたお気に入りのコンソメスープを一口飲んだ。
口の中でコンソメの味と香りが広がり、まだ温かい液体が彼女の喉を通りすぎていく。
「うーん、バイトから帰ってから、また描くか」
そう呟いて、彼女は広げていた絵描き道具を片づけ始めた。