箱庭センチメンタル



ほっと息をつき、乗り切ったと額に浮かんだ汗を軽く拭う。


静か過ぎるここは、自身を表しているようにも思えてふと孤独を感じた。



もちろん、そんなことを人に打ち明けられるはずもなく。


言えば一から仕置きを叩き直されるだろう。


だからこそ、表立って自身を晒すことなどできないのだ。


尤も、自分が本来どういった性格で、何を好み、本当はどう思っているのか、分からないのだから意味はない。



他の何より、知らないことの多い自分。


難儀なものだと遠く思った。




そっと障子を開ければ、広がる庭に大きな池。


池の中では、数匹の立派な鯉が穏やかに、ゆらりと揺れるように泳いでいる。


これを縁側の定位置に座り見るのが、恐らくは唯一気の休まる時間。



このほんの数分が、私にとっての幸福。


何もかも忘れることができる、この上ない満悦の時なのだ。


< 11 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop