箱庭センチメンタル
これ以上の幸せなど、存在すらしないのではないか。
狭い世界のみ知る私はそう考える。
「雛李様。朝食をお持ち致しました」
背を向けていた少し離れた襖の奥、廊下から声がかけられた。
「どうぞ。お入りください」
障子をほんの少し閉めて、襖近くまで寄りつつ声をかける。
僅かな音を立て、襖が開く。
「失礼します」
控えめににじり入ってきた使用人の20代半ばの女性。
「ごゆっくり」
食事を私の前に置くと、そそくさと部屋を出て行った。
一度も目を合わさないまま。
否、合わせられないのだ。
お祖母様の命令で、配膳を目的とした彼女は、私の前では手元のみ見ることしか許されていない。
哀れとも思える姿。
分かっているつもりだとしても、きっと、やはり期待をしてしまう。