箱庭センチメンタル
返事など、必要なかった。
肯定も否定も、口にしたところで意味などない。
所詮、それは私の意見ではないのだ。
私の存在意義は、ここにある。
この方の下でのみ成立し、この方がいなければ測れない。
当主の言葉は絶対だ。
私はそれを実現させなければいけない。
名ばかりのお人形は、やがて本物へと変貌を遂げて行く。
恐ろしいほどに、侵食される心。
もうきっと、残っていない。
正しいあり方であることが喜ばしいのに、なぜなのだろう。
悲しいわけでもないのに、とても、揺らいでしまうのだ。
墨を擦り、再度筆を滑らせようとした刹那。
遠くから足音が近づいてきた。
この屋敷で音を立てて走り回る者はいないはずなのだけれど。
何事かと、手を止めたところで。
「大奥様、大奥様はいらっしゃいますか!!」