箱庭センチメンタル
何も言えないまま立ち尽くす私に、最後に向けられた笑顔。
「俺はまた会いたいって思ってる。だから、ここに来る」
彼を止める言葉を、私は持ち合わせていない。
止めるべき時なのに、何故。
また、私は——。
ぎゅ、と手に力が入る。
「ありがとな。本当に、本当に助かった。
じゃあな……———“雛李”」
思考が、停止した。
……この人は。
今、なんと言った?
私の名前を、呼んだ。
私は彼に名乗っていた?
そんなはずはない。
そんな事、記憶にない。
何故か、と。
問う前に彼は背を向けて行ってしまった。
まるで逃げるかのように。
何も言わずに、行ってしまった。