箱庭センチメンタル
鳥がさえずり、池の鯉が跳ねる。
変わらない日常。
また戻って来る、変わらないはずの日々。
そう、思っていた。
私は甘かったのだ。
衝撃的な出会い、考えられない体験をして、感覚が麻痺していたのかもしれない。
私は忘れていた。
起こってしまった、恐れていた事態。
どうやって部屋に戻ったのかも覚えていない。
意識がはっきりしたのは、唐突だった。
私は気付かなかった。
声をかけられるまで、誰かがいるなど思いもしなかった。
「随分と遅い帰りでしたね」
聞き慣れた声。
けれど慣れることもできない、高圧的な声。
発した一言にさえ力があり、屋敷にいる者、誰1人として逆らわない。
誰からも恐れられる方。
「幸嶺、お祖母様…」
驚くほど無機質な自身の声で紡がれた、絶対的な存在。