タイム！

……桜 稚早。

長髪の黒髪。

雪のように白い肌。

僕の席からでもハッキリと分かるフランス人形の様なパッチリとした両目に高い鼻。

カモシカの様な、スラッとした足。

そしてモデル顔負けの八頭身。

教壇の隣で立っている桜 稚早を女と言うだけで騒いでいた男子達は、彼女の容姿に、皆みとれて言葉を失い、女子達も彼女の容姿に嫉妬する処か尊敬の目を向けているようだった。

僕も、その一人で、健二を横目でチラミすると、健二も彼女の容姿を食い入るように見つめている。

「お人形みたい……」

クラスの女子が小さくポツリと呟く声が聞こえてしまう位に静かだ。

クラスの女子がそう言うのも無理もないほど
桜 稚早の表情は無表情で本当に人形の様だった。

「お前達。急に静かになってどうした！？」

急に静まり返ったクラスの生徒達に守口が話しかけた。

「…………」

守口が尋ねてもクラス全員が桜 稚早と言う一人の存在に心を奪われていた。

彼女は不思議なオーラを放っていた。

容姿端麗なハリウッドスターや女優が目の前にいたらきっとこんな気持ちになるのかもしれない。

「ゴホン。」

守口が軽く咳払いをして、話を続ける。

「えーこれからクラスメイトになるんだ。皆仲良くするように！！」

守口が話し終わると、授業終了を報せるチャイムが鳴った。

「ちょうど、授業も終わりだ。皆帰る準備をして、桜は今日これから引っ越しした家の手伝いがあるから、先に帰らせる。皆明日から高校生活を共にして青春を桜花するように！！」

皆、守口の言葉を無視するように、僕を含め、この場にいるクラスメイト全員が彼女の出す不思議なオーラに呑まれていた。

「最後に桜も皆に一言これからの抱負の様な事を言いなさい。」

守口が彼女に話しかけると、無表情のままクラス全体を見ている。

僕達は彼女の口から何が発せられるのか興味津々で見ていた。

時計の秒針の音が教室に響き、数秒して彼女は無表情のまま口を開いた。

「私は未来からきましまた。これから起こる事を食い止めるために。信じてくれとはいいません。頭がおかしいと思われても構わない。友達なんていりません。」

「！？！？」×全員

突然桜が発した電波的な言葉に誰も理解出来ず、彼女の容姿にみとれてただ静まり返っていた教室が今度は彼女の言葉で凍りついた。

また、時計の秒針の音だけが教室に響く。

しばらくして守口が我にかえり、慌てて彼女をフォローするように話し出した。

「えーなんだ、桜は今引っ越しの疲れや知らない土地での生活で不安なんだろう。皆仲良くしてやってくれ！」

それだけ言うと守口は桜の手を引っ張り、教室から出ていく。

守口から連れていかれる桜の横顔を見ていると、彼女が急に僕の方を振り向き口パクのように小さく口を動かしたように見えた。
「け」
「い」
「た」
「い」