S系御曹司と政略結婚!?
焦れた私は再び立ち上がり、彼の腕を引いて強引に隣に座って貰うことにした。
点滴で楽になっていた身体も熱も上がったのか少し辛いけど、ここで倒れてなんかいられない。
怖いほど静まり返った室内に緊張が大波のように押し寄せてきて。震える手をキュッと握り、ひとつ深呼吸をする。
これ以上、怖いものなんてない。ここで向き合わなければ、私はずっと前に進めないまま。実紅にパワーを貰ったから、大丈夫。
『大丈夫』と、何度も自分を励ます。——ちゃんと話をしたうえでお別れを伝えよう。
「あのね」、私がそう重い口を開いたその時だった。
「——あれはキスなんかじゃない」
ソファに着いてからも無言を貫いていた和也が、突然そう畳み掛ける。
虚を衝かれて隣に顔を向けた私は、恐怖から握っていた手の力に怒りが増す。
「あれがキスじゃない……?よくそんなことが言えるわね!?」
「事実は事実だ」
悪びれる素振りのない発言を聞いて、目の前が真っ赤に染まるのを感じた。
「ほんとに、最っ低!女の敵!浮気男なんかキライ!……あ、違った。この不倫男ーーー!」
少し声を上げただけで息が上がるこの身体が、今は無性に悔しい。
鼻息荒く睨みつけたのも束の間、ポーカーフェイスでこちらを眺める男を見て我に返った。
大人の話し合いをするつもりが……!さっき“S”男に暴言を吐きまくった気がする。
“俺に逆らうつもり?”“俺が白だと言えば白なんだよ!”を当たり前に言う、ジャイアニズム継承者に向かって。
「普通に考えればそうだな」
しかし、ヤツの顔に変化は見られず、淡々と返してくるだけ。プチパニックを散らすほど、色をなしていない。