S系御曹司と政略結婚!?


艶のある黒い瞳をただジッと見ていた私は、ふと一抹の寂しさを感じ取る。

よく目を凝らして分かる些細な変化が、責める気持ちに歯止めをかけさせた。

悲しいのはこっちなのに。なぜ和也まで辛そうなのか、その理由を聞けないままで。

すると彼は立ち上がり、窓のそばまで行くと私に背を向けてしまった。

窓の向こうに広がる、緑あふれた景色をただジッと見つめている。


「華澄……悪い、今からちゃんと話す。嘘偽りはないと誓うから」

肩越しにこちらに視線を送ってきたヤツの真剣な瞳に、コクンとひとつ頷くのが精一杯だった。

少し緊張を滲ませていたのが伝わってきて。息を呑んで待つだけの私に表情を少し緩めた和也。

ふぅと小さく息を吐くと、再び景色のほうに向き直った。


「……山内とはあれ以外、本当に何もない。寧ろ、超がつくほど嫌いだ」

別れようと切り出されるのだと、もう諦めていた。それなのに、主のことを“嫌って”いる……?

「……その言葉を信じろっていうの?」

「そうだな」

傍若無人な広い背中に再び怒りが込み上げる。

だったら、何でキスするの?つまり、性欲処理に感情うんぬんは別っていうこと?

もう弁解なんていらない。身勝手な言い分なんて聞きたくない。絶対に別れてやる……!

私が口を開きかけた瞬間、向き直ったヤツの鋭い視線が飛んでくる。


「今言われたことも忘れたのか?その残念な頭は」

わざと溜め息を吐き出したヤツに苛々も頂点に達し、立ち上がった私も負けじと言い返す。

「はあ!?ちゃんと聞いてますぅ!
そっちこそ、嘘偽りはないとか言う前に行動で示したら!?」

不調であることもすっかり忘れて、こちらに近づいてきたヤツにそっぽを向く。


< 101 / 123 >

この作品をシェア

pagetop