S系御曹司と政略結婚!?
「華澄」と呼ばれてもツンとすましてスルー。傍から見れば悪態をつく女そのもの。
それでも許せないものは許せない。素直に認めるどころか逆切れするし、こちらの怒りも倍増だ。
どう頑張ってみても分かり合えない人を好きになった私は、本当に見る目がない。……男運のなさはもう諦めよう。
はぁ、と嘆息した刹那、頬に手を添えられる。すると、そのまま顔の向きを変えられ、ヤツと見事にご対面。
「馬鹿は返事も出来ねえのか?」と言う尖った口調に冷ややかな視線が怖い。
“S”神野の襲来で怒りは風船のように急速に萎んでいく。長年の習慣ほど恐ろしいものはない。
ヤツはS人間界の頂点に立てるよね。しかも、M気質の天下がわずか1分って……。
そこはかとない邪気を感じるヤツに辛酸を舐めた私。すぐに顔を固定されていた手が外れる。
助かったと感じた直後、今度は力強い腕が身体に回されて。ギュッと抱き締められていた。
「……何すんの」
「行動で示せっつたの、そっちだろ?」
潔いほどの上から目線に溜め息をつく。そこで呼びかけられた私は、腕の中から顔を覗かせるとヤツと目が合う。
こちらに顔を近づけてきたヤツにその距離を徐々に縮められ、咄嗟に目を瞑ってしまう。
その瞬間、唇の端に触れた甘い感触に背筋が粟立つ。大きく目を見開くと、そこにはニヒルに笑うヤツの顔が。
「行動で示すように奥さんが言うし?——華澄、俺はオマエしか愛せない。これが本心だ」
低い声で囁かれた私は頬の熱が急上昇。二度目の告白によって頭の中はショート寸前。
「なっ、で、も、キスっ!」
「ああ、オマエ体調悪いし、あえて外したけど。……物足りないなら今すぐ消毒しようか?」
唇が重ならなかったのは私を気遣ってくれただけ。それが分かってどれほど安堵したのか知れない。
「ずっと好きだった。……オマエよりも前からな」
そう告げると“S”神野は影を潜め、満面の笑みを浮かべていた。