S系御曹司と政略結婚!?


キャンバスのように真っ白な天井が次第に揺れ始めて、咄嗟に目を瞑ってしまう。

「……ったく、ほんと泣き虫だな」

いつもの呆れた声音が頭上で聞こえると、優しい指遣いで涙を拭ってくれた。

「……そ、だね」

泣き止もうと思っても上手くいかず、涙は後から後から流れてきた。


瞼を開いた先には和也がいてくれるから、もう何も怖くない。黙っていれば、きっと上手くいく。

弱気な心に対して必死に言い聞かせている自分が惨めに感じてしまった。

すると和也はベッド脇に置いてある椅子に腰掛け、点滴をしていないほうの手をそっと握ってくれた。

それなのに私は、その手を握り返すことが出来なかった。


「……わ、たし、本当に信じてもいい、の?」

主とのことが急にフラッシュバックし、本当にこのままで良いのか分からなくなる。


「ああ、絶対に裏切らない。約束する」と、真剣な眼差しで返してくれる彼。

この優しさは期間限定なの?この子が産まれたら、跡継ぎが出来たらまた離れていくの?


もちろん和也本人の言葉を信じたい。だけど、頭で理解出来ていても感情がついていかない。

重たくて暗い感情に引きずられるようにして、自分の居場所を追いつめられていくのを感じた。

主との件が真実が分からないからだと気づいた瞬間、言いしれぬ不安の正体まで見えてしまう。

静かに涙を流していると、「華澄」と悲痛な声で呼ばれて顔を上げた。


「本当は今日はもう眠れって言いたいとこだが、さっきの話の続きをしよう」

そう言った彼の表情には、微笑の奥に漠然とした不安が感じられる。——貴方をそうさせているのは何なの……?


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