S系御曹司と政略結婚!?
拠りどころ
ベッドから起き上がった私は肩にショールを掛けて貰うと、傍らに座る和也の言葉を静かに待った。
白に染め上げられた空間には薬品の匂いが鼻を刺激し、医療器のモニター音が鳴り続けている。
今も戦う命の現場が私たちに現実と向き合えと告げているようで、気づけば涙も止まっていた。
思い詰めたような顔を覗かせた和也も、やがてこちらに視線を向けると静かに語り始めた。
「消すことの出来ない事実は認める。あの女とはキスした」
「……うん」
視線を落としてしまったもののどうにか頷く。その状況を思い出しかけ、慌てて思考をストップ。
本人から事実を認められた瞬間、胸に疼くような痛みがひた走る。
かつての失恋とは比べられないほど辛いことも知りたくなかった。
「傷つけることしてごめん。でも、もう少しだけ聞いて欲しい。無理か……?」
焦燥感に駆られた声音で聞かれると顔を上げるしかなくて、再び彼の目を見て首を横に振った。
その口調が丁寧な和也もまた、私と同じように色々な感情と戦っているのが伝わってきたから。
「華澄と出会うまでは……、その場限りの関係を持つような男で、真面目に付き合うこともなかった。
好きな時に抱けて割り切りある女が一番だった」
過去の女性遍歴を聞いたのはこれが初めて。今は苦しさを注ぎ足すものでしかない。
それに鈍い私だって、何となくは気づいていたよ?
人目を惹く容姿に身のこなしもスマートな男を、周囲の女性が狙うのは当然だから。