S系御曹司と政略結婚!?


「昔の俺がその場限りの女としか関係を持たなかったって言ったこと、覚えてるか?」

気落ちした声が出てしまいそうで、ただ頷くだけに留める。


「でも、一人だけ例外がいて、結構長く続いた女がいるんだ。——それが、あの女……山内の姉だ」

話の途中までは、てっきり山内さんが和也と関係を持っていた人だと思っていた。

山内さんのお姉さんが相手だった……?その事実に驚き、ただ言葉を失う。

そんな私を宥めるように、点滴を受けていないほうの手を優しく握ってくれた。


「誘いをかけたのは俺だが、同じように相手も割り切ってたんだ。
彼女の結婚と俺のほうも忙しいのが重なって、最後もあっさり途絶えたけど、ちゃんと清算してある。
だが、あの女は……、この話を嗅ぎつけ、方々調べたらしい。——今の俺にとって汚点でしかないことをな」

「汚点?どういうこと、なの?」


主のお姉さんと関係を持っていたことは理解した。だけど、どうして妹がそこに入ってきたの?

聞きたいことばかりで混乱する私は、話してくれるのをジッと待つ。

優しい色の照明の下で向き合う私たちは、やり切れない過去と再び対峙する。


「……もちろん俺が悪いのは承知してる。だが、あの女は俺の弱点をついてきて……、“過去を全部洗い浚いバラす”と脅してきた」

苦虫を潰したような表情で語られた事実に強い衝撃を受ける。——和也が主に脅されていた……?

憎しみを込めた物言いと様子から、本気で主のことを厭っていると感じられた。

主は社長秘書、つまり和也の秘書を務めている。上司を脅すなんて正気の沙汰だよ。


「あの、弱点って何か、聞いても良い?」

遠慮がちに尋ねると、苛立っていた和也の表情が少し和んだ。


「俺の弱点?んなの、オマエしかないよ。……だから、このことを言えなかった。
華澄がようやく振り向いてくれたのに、そこで昔を知られたらどうなる?絶対離婚するって言うよな?
オマエをあの女から遠ざけることしか出来ねえし。嫌われたくない感情に負けた……ごめん、手っ取り早く条件に応じて」

「そ、れが、キス……?」

力なく頷かれて、この問題に苦労したことを知る。深い溜め息を吐いた和也は、いつから悩んでいたの?


「ごめんな」

力無げに紡がれた後悔の言葉は宙空に舞って静寂の中に消えていった。


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