S系御曹司と政略結婚!?


「和也は何も言わないの?」

真向かいで主が狼狽えていようが知らん顔の彼。どうやら私がそっぽを向いてから不機嫌なので話を振った。

「言う必要ない」

「つまり、女の涙には弱いってこと?」

にっこり微笑んで返すと、怒りの矛先を正面から隣に変えた。……庇う気がなくてもこちらはそう感じるの!、と。

すると彼はすぐさま否定し、その表情を緩めて私を宥めにかかった。

あの日以来、最も変化したのが和也の態度だと思う。家庭内での立場も、今では対等かもしれない。


暫くそっぽを向いていると、「そろそろか」と呟いた彼に首を傾げた。

「風林火山の姿勢でいたってこと。猪の華澄と違ってね」

ニヤリ、と質の悪い笑みを浮かべた和也。この表情をする時、ろくな目に遭わない私は身震いした。

武田信玄公のこと好きだよね。でも、和也にはジャイアニズムの俺様が一番しっくりくるよ?


顔を引きつらせていた刹那、バンッ!とけたたましい音で入口のドアが開く。

開け放たれた扉の向こうに捉えたのは、色気を漂わせるひとりの女性だ。

私が唖然としている間に、それまで無言だった主が勢いよく立ち上がる。

その女性はずかずかと部屋に足を踏み入れ、厳しい表情で主の前に立った。


あの、どちらさまですか?今は立ち入り禁止のはずで。せめて、どなたか名乗って……!

異様な空気が蔓延し、この状況に困惑する私。一方で和也の喜悦に満ちた眼差しが恐ろしい。


「アンタ、自分が何したか分かってんの!?」

乱入女性は怒り声でそう叫ぶと、主の頬を容赦なく引っ叩いた。

「痛っ!なんで私が殴られんの!?」

強く頬を打たれ、一瞬顔を顰めた主はすぐに気の強さで逆切れした。……どうやらこちらが本性らしい。


目の前で繰り広げられる光景に私と和也は蚊帳の外。いえ、衝撃が強すぎて口を挟む勇気もないですが。


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