S系御曹司と政略結婚!?
主は和也を好きだと思っていたのに、実際はその逆で。これには私も衝撃を受けた。
お姉さんが苦しむ姿が蘇ったという主。自らの犠牲を厭わないその激情を不憫に感じられたの……。
「この度は本当に何と言って良いのか……、誠に申し訳ございませんでした」
やがて主の頭を強引に下げると、ひたすら謝罪を繰り返すお姉さん。私たちは止めることに必死だ。
お姉さんこと、前田 実由(マエダミユ)さんは現在2児のママ。旦那さまは10歳年上の方だそう。
再び土下座をしかける実由さんを止めると、「本当に謝罪は必要ありません」と笑いかけた。
主の本音を知った以上、あの日から消えなかった怒りや悲しみも、綺麗に消える気がしたの。
もう後ろを振り返ることはしない。辛い時には少し立ち止まって、また一歩踏み出せば良い。
少しふっくらしたお腹に触れると、そう強く感じるの。隣にはいつも和也がいてくれるしね?
すると、落ち着いたはずの実由さんが今度は私たちを見て笑い始めた。
「ごめんなさい。でも、ほんと良い子に出会ったね」と、和也に向かってしみじみと呟いた。
「確かに、当時はいい思い出ばかりじゃないけど、今振り返るとあれが正しかったと思う。
その時があったから、お互いに最愛の人に出会えたしね。——あー、なんかスッキリした!
再会させて貰えたことだけは実加に感謝するわ。華澄さんまで見られてラッキー的な?」
おどけた調子の実由さんが可愛らしくて、つられて笑ってしまう。
それまで口を閉ざしていた和也が一笑すると、実由さんに語りかけた。
「昔は傷つけて本当にごめん……。あの頃のあったから、華澄に出会えたし、守るべきものも増えた。
今日は来てくれてありがとう、そっちも幸せにな」
最後に実由さんに向かって頭を下げ、その後は優しい顔つきを見せた。
その姿に目を丸くしたあとで軽快に笑う彼女は、ニヤリと口角を上げてこう返した。
「言われなくても、前田家は超幸せなんですー。
そっちこそ、華澄ちゃんに逃げられないようにね?」
「ハハッ、忠告だけ受け取っとく」
焼けぼっくいは絶対ない!と言い合うふたりは、ただ昔を懐かしんでいた。
安心感に包まれたこの日々が、どれだけ愛しいものかを教えてくれるから、今は何も怖くないの……。