S系御曹司と政略結婚!?


それから主は、秘書課から広報へと職場を移した。

実由さんによると、あの一件で仕事を辞めるつもりだったらしい。

だけど、私たちの気にしないという言葉で会社に残る決心をしたみたい。

「こき使っていいから」と言ったのは、心を入れ替え始めた妹に向けた姉なりのエール。

顔を突き合わせるのは互いに気まずいからと、速やかに変わって貰うことにしたの。

異動先の先輩がたの厳しい指導のおかげか服装も控えめになり、傲慢だった態度も変わったのだとか。

イイ性格をした主だったけど、仕事に関しては若さをカバーする能力があったのも事実。

後任を充てがう段階で、私はすかさずある人をプッシュしたの。


そうして空席となった社長秘書には現在、新たな人物が納まっていて……。


「華澄ちゃ……っと、奥さまだった……!」

そんなひと言で迎えてくれた彼女に、今日も会った瞬間から頬が緩んでしまう。

そう、後任には私の秘書を努めてくれた実紅を推したのだ。

処理能力とスキルの高さ、そして丁寧かつ真面目な仕事ぶり。けれど、たまにヌケたところはご愛嬌。

何よりアメのように甘い実紅とムチを持った厳しい和也。ふたりならきっと上手くいくはず、と。


「お疲れさま。相変わらず忙しいみたいだね。
検診終わりってちょうど実紅が忙しい時間帯だったよね?仕事大丈夫?」

定期検診の帰りに立ち寄ることを思いついた私が連絡を入れると、彼女は笑顔で了承してくれたの。

「ぜーんぜん平気っ!その分、気合い入ったから捗ったもん。
ありがとう、このお店のケーキ大好きっ!お茶淹れるから座っててね」

来る途中で立ち寄ったお土産のケーキを受け取った実紅は、満面の笑みで給湯室に向かった。


人気のなくなった静かな社長室のソファにゆっくり座った私は、辺りを眺めてひと息つく。

存在感のある大きな執務机の上には何もなく、日々主人を支える革張り椅子もどこか物寂しそうに見えた。

今日はこの部屋の主人こと、和也の不在を実紅に聞いていたので、確信犯の私は会社を訪れたのだ。


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