S系御曹司と政略結婚!?


暫くして淹れたてのお茶とケーキをトレーに載せ戻ってきた実紅と、ふたりで少し早めのティータイム。

温かいカップを手にすると、今日はケーキに合わせて無糖のままコーヒーに口をつけた。

ここの給湯室にはカフェインレスの物が多数揃えてあるみたいで、彼女の気遣いがまた嬉しい。


「社長って、ほんと人遣い荒いよね……」

向かいの席でベリータルトをぱくぱく食べる実紅が、不意に溜め息をついた。

「でしょ!?悪魔のジャイアニズムなのっ!」

「ちょっ、ジャイアニズムって……!」

思わず吐き出したフレーズがツボに入ったのか、大笑いし始めた彼女はじつに表情豊かな子だ。


「でも、実紅も獲物認定されているみたいだし、諦めたほうが良いかも。
あと話を聞く限り、完全に本性が現れていないような……」

「あれ以上っ!?いやいや、絶対むり!」

ぐったりとソファに寄り掛かりながらも、必死に断固拒否の姿勢を見せているけどね。

「それが“S”を煽り立てるらしいよ」

「やだーー!華澄ちゃんしっかり躾けてよーーー!」

それこそ無理な話だからね?もし“S”の対処と教育方法なんて講義があれば、いの一番に学びたいから。


主の件が片づくと同時に、私は尾崎先生の勧めもあり、和也ともよく相談した上で副社長職を降りた。

あれほど責任なんていらない、役員なんて不相応だから早く辞めたいと思っていたのに。

いつの間にか経営に楽しさを見出していたの。和也のスパルタ指導の結果、少しは成長したのかも?

それで会社の2トップことお父様とお祖父様と話し合った結果、新たに取締役・非常勤監査役に就任したのだ。


毎日会社に通うことはなくなった今は、日々安静と病院通いが私の仕事。

残念なことに、実紅と顔を合わせる機会はぐんと減った。それでも、この大切な時間はずっと続いている。

何気ない日常のこと、お互いの愚痴もたまには発散、さらに美容の話題に移るとヒートアップしたりね。


「あ、蹴った」

「ほんと!?」

2個目となるケーキのシブーストを食べ終えた実紅がそのひと言でこちらに駆け寄ってきた。

「触ってみてもいい?」と、聞かれたので笑顔で了承する。

迫り出したお腹に彼女がそっと触れると、内側からさっき以上の反応が返ってきた。……もしかして空気の読める子なのかもね。


< 116 / 123 >

この作品をシェア

pagetop