S系御曹司と政略結婚!?
その後の、ひとつ…
天然――この言葉を本人に自覚なきまま体現する女が、どうしてか俺の周りには多いらしい。
「やーん、実紅可愛いー!」
ホテルの一室でキャーキャー騒いでプライベート以上に笑顔連発なのが奥さんの華澄。もとい、天然第一号だ。
広々としたプレジデント・スイートの部屋で、ピョンピョンとうさぎのように飛び跳ねて相手を褒めている。
苛々するのは俺にその表情を見せていないからだろう。微笑んだその顔を無理やりこちらに向けさせ、キスしてやりたくなるが。
はしゃぐ今の姿は誰が見ても日本屈指の名家、有川の令嬢とは思わないだろう。旦那の俺が思うのだから、間違いねえな。
そんな華澄のテンションが最高潮に上り詰めてしまった時は、さすがに俺も呆れて物が言えない。
これは天真爛漫と褒めるべきか、結婚以前からの悩ましい問題は、今でも答えが出せずにいる。
「いや、嬉しいんだけどね?華澄ちゃんには負けるよ、絶対!」
「なんで?」
「えええ!?何でって」
首を傾げている華澄に、呆れ半分驚き半分で絶叫しているのが、先ほど賞賛を受けていた秘書の井川 実紅。もとい、天然第二号だ。
やけに気の合うふたりは、相手のことは天然だと感じているのに、自身については天然と思わず。まあ、それが天然たる由縁だろうか。
この場の空気を読まないコイツらは、ある意味で最高に幸せなマイペース人間だと思う。