S系御曹司と政略結婚!?


「ハハッ、さすが木目細かい気遣いが出来るな!華澄も彼を見習って邁進しなさい」

審美眼は優れているし、部下として四六時中ともにいたはず。それでもヤツにまるきり騙されているお父様に天を仰ぎたくなる。

「うむ、華澄は女性らしさが欠けているのでな」

その隣で悠長にお茶を啜りながら、私のことに関しては容赦なく欠点を突いてくるおじい様。

何で稀代の経営者がふたりして、コイツの二重人格には気づけないのよ……!


「いえ、そんなことございません。副社長は大変可愛らしい女性だと思いますよ」

化け猫のヤツはふたりに法螺を吹いている。そもそも、可愛いと思っていたらあんなに罵倒されませんよね?

もう、この生産性のない会話にイチイチ突っ込むのも疲れてきた。

味方のいない状況に投げやりになった私は、今だに会話が続く中、目を瞑って瞑想することにした。


「……ぃ、華澄ーーー!」

「……へっ!?」

軽く目を閉じて俗世から離れるだけのつもりが、どうやら眠りの世界に誘われていたらしい。

おじい様の声が見事に割り入ってきて一気に目覚めた私は、顔を強ばらせながら正面を見た。

いささか呆れ顔のお父様と、眉を上げて怒った様子のおじい様のふたりを捉え、あまりの居た堪れなさで視線が泳ぐ。

「まったく、これがビジネスの場面だったらどうする!ましてや、居眠りなんて品の無いことを有川の人間がするな!」

「……はい、すみませんでした」

おじい様のお怒りは尤もだ。あまりの情けなさで項垂れるように謝った。


< 16 / 123 >

この作品をシェア

pagetop