S系御曹司と政略結婚!?
今の私は鬼瓦のような表情なのかもしれない。しかし、それほどにストレスが積もりまくっていたのだ。
——ここに居合わせる、傍若無人な3人のお陰でね……!
しかし、私の怒りの反撃も蹴散らすように微笑んだヤツは、さらに気遣わしげな視線を投げ掛けてくる。
「やはりお疲れなのですね。申し訳ありません、無理にお連れしてしまって。副社長、やはり今日はご自宅に戻りましょう。
会長、社長……この件に関しましては私よりご説明申し上げますので、本日は此処でお開きとしませんか?」
最後に気の抜けたふたりにそう持ちかける。そこでハッと我に返った父は、こくこくと縦に首を振り始めた。
「そ、そうだね!見苦しい所を見せて本当に申し訳ない。それじゃあ……、娘をよろしく頼むよ」
あっさり了承した父は、今も腰が抜けて放心状態のおじい様の手を引き、そそくさと退散してしまった。
こんな状態の娘を放置するとかおかしいよね?任せる相手だって間違ってる……!
あれほど怒り狂っていたのに、的外れな言葉を受けた私は、ただ呆然と立ち尽くすしかない。
すると開け放たれたままの襖をきっちり閉めたヤツは、唖然としている私の元に戻ってきた。
その表情はさっきまでの笑顔など消え失せ、眉根を寄せて怒りに満ちているのが分かる。
「ふざけんじゃねぇぞ?」
冷酷な眼差しが向けられ、顔から血の気がサーッと引いていくのを感じた。……もしかしなくてもこれ、スイッチが入った?
悪魔よりもある意味恐ろしいのが“S”バージョンの神野を前に、血圧急上昇していたのが遠い昔に思う。
それでも我慢しつくした、怒りは収まらず。拳をグッと握った私は、意を決して口を開いた。
「……そ、それはこっちの台詞よ!何で婚約なんてしなくちゃいけないの!?
貴方のこと、職場の先輩としては尊敬してますが、人としては嫌いなの!業務外でも苦痛を味わうなんてほんとにいや!
それに貴方だって私が大嫌いでしょうし?婚約なんてしたくないでしょう?」
息をハァハァと上げつつも、思いの丈をぶちまけられた。そうよ、負け戦だってまだ決まっていないと。