S系御曹司と政略結婚!?
理想と現実
ようやく解放された私は、ハッとして手の甲で唇をゴシゴシと遠慮なく拭った。
「なっ、なにすんのよ!サイッテ—!」
猪のような勢いもなくなった私からは明らかな動揺が漏れているらしい、鼻で笑われているのがいい証拠だ。
「たかがキスぐらいでそんなにキレるか?ま、経験乏しそうだけど」
なんて失礼なヤツ……!憤慨する私が睨みつけてもやっぱり動じない。
「ああ、言い返せないってコトは図星か」
勝ち誇った表情でこちらを見下ろしながら、確信を突いたように言い放つ男は悪魔だ。
歴代の彼氏の人数は3人だけど、ごく普通でしょう?……白状してもきっと鼻で笑われるから、絶対に言わないけど。
「おおかた3人ってとこかな」
黙秘する私に向かってイイ顔でそう告げてくる。盛大に狼狽えてしまった私は、肯定してるに等しい。
「分かりやすいな」
悔しくてもその通りで言い返せず。ヤツからは哀れみの目を向けられ、嘘をつけない自分に余計に腹が立つ。
「安心しろ、手慣れた女は好きじゃない。初心な婚約者にはオレが手取り足取り教育してやるから。……色々と、な」
「はあ!?」
今のはサラッと流していい台詞じゃない。妖しい笑みで危ない世界に手招きしてくるヤツに、怒りと恥ずかしさで顔が熱くなった。
「ふっ、ふざけないでっ!婚約なんて認めてないし、死んでもイヤって言ったでしょ!?
どこまで私をからかって、馬鹿にすれば気が済むのよ……」
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。もうこれ以上、耐えきれないと心が告げているように。