S系御曹司と政略結婚!?


だだっ広い廊下を走り抜け、自室に到着した私は内側から扉に鍵を掛けてしまった。

それからウォークイン・クローゼットに向かい、長期用の大きなトランクを数個取り出す。

部屋の鍵は由紀子さんたちの進入を防ぐため。家族の私室に関してはマスターキーを預けていないので、あとは無理に開けるしかない。

部屋の外の静けさにホッとして、急いで着替えや化粧品などの日常生活用品を詰め込んでいく。

日用品は後からでも購入できるけど、貯蓄の減りを少しでも減らせるのなら重いほうを選ぶ。

さらに母が元気で幸せだった頃の家族写真と、大学時代のテキストや文献もしまって。手持ち鞄には預金通帳、株券や権利書、印鑑などを詰め込む。

よし、自分の力で自由になろう。ひとりでも、お金が無くても、幸せになれるんだから……!

おじい様やお父様、名前も出したくないヤツみたいに、金と権力を必要としない人間だっているって証明したい。

いずれは好きな人と好きな仕事をして……なんてありふれた夢を持って何が悪いの?

たくさんの荷物を手に持ち、憧れ続けた希望を胸に、ドアを開いたその瞬間、とんでもないヤツと対峙する。


「なっ、なんで此処に!?」

ドアの向こうで待ち構えていたのは、料亭で振り切れたはずの“S”神野だった。

ヤツは私の足下にあるたくさんのトランクを一瞥しながら、嫌味な笑みを浮かべ口を開いた。

「オマエみたいな単細胞の考えなんて誰でもすぐに分かるっつーの。
まあ即行動に移すだろうなと思って見物に来たら、本気か?……ホント馬鹿だな、上手くいくと思ってんの?」

蔑みの視線をもってこちらを見下ろしてくるので、その眼差しから逃げる外ない。

「……どういう意味よ」そう意味の真意を尋ねる私に、心底呆れたような声が届く。

「そんなのも分かんねえの?やっぱり温室育ちの嬢ちゃんだな」

「そっちこそ、人から尋ねられたら答えるのがマナーでしょ?エリートのアンタなら常識のはずじゃないの?」

かなり負け惜しみだが構うもんか、と私の精一杯で反論を繰り出す。


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