S系御曹司と政略結婚!?
委任状っていうのは、第三者に自分の有する権利を任せ、委譲することが可能な用紙のことだよね?
そんなの書いた覚え……とあれこれ考えながら、ハッとさせられる。
「たしか役員報酬の振込口座を開設する時に、それっぽいものにサインをしたような……?」
銀行の重役さんや支店長さんたちとお会いした日、そういえば祖父もその場にいて。
今後委任状が必要になるからとか言われて、素直にサインしたことに思い至った。
「それだな。つかオマエ、よく何も知らずにサイン出来るな?」
壁に背をつけたヤツは腕を組みつつ、まるで馬鹿なモノでも見ているような視線を送ってくる。
「だ、だって!口座開設するにはもしもの時に備えて委任状を作成しないと開設出来ないって、お父様が……!」
あれ、ちょっと待って。私その時もまんまと騙されてたの?しかも、父には銀行の方とお会いする前日に言われたのだ。
「今さら遅いってこれで理解出来たか?何も知らずに、のこのこ銀行に行って恥をかくよりは良かったな」
有り得ない!有り得ないって!一気に力の抜けた私は床にぺたんと座り込んだ。
「無一文で無職、しかも保証人無しとくればまともな家すら借りられねぇよ。これでもまだ、家出する気か?」
勝ち誇ったように見下ろされ、悔しいのに何の反論も出来なくなった。