S系御曹司と政略結婚!?
憂鬱な時
「神野様ならびに有川様。本日はまことにおめでとうございます」
「ありがとうございます」
品よく纏められた空間で丁寧なお言葉に笑顔を返す。ここは有川が古くから贔屓にするホテルの特別室。
並んで座るオヤジとクソジジイの顔は終始にこにこしていた。(もう“様”付けしないと誓っている)
私たちと向かい合っているのは神野家のご両親と、その息子こと法螺吹き上手なヤツ。
ここで私とヤツの結納の儀が執り行われたのだ。……私の気分が最低最悪でも、誰ひとり気に留める人はいない。
「じつに目出度いな、神野さん」
「そうだなぁ。有川さん、ますます息子を宜しく頼むっ!」
「やだわ、あなたってば。お願いする相手は華澄さんよ?」
「おっ、こいつはウッカリ!」
「神野さん、変わらないねぇ」
先ほどまでの厳かな雰囲気は消え失せた今、親同士がやたらと盛り上がっている。それもエンドレスで……!
項垂れたいところだけど、これも自分で選んだ結果だ。ただし、承諾するしかなかった道だけどが付くけどね。
あれから、ためらう私なんて置いてけぼりに話は高速で進んでいった。
婚約の件はすぐに大々的に発表され、またたく間に社内はおろか取引先に至るまで周知の事実となった。
これも確信犯なオヤジたちのせいだ。私が逃げ出せないよう、さっさと話を進めているらしい。
おかげで3ヶ月後にはここで披露宴が行われるとか。しかも、招待客の都合で3回に分けて披露宴をするなんて。
晴れの舞台は一生に一度で十分ですけど。あ、違う!
アイツが相手という時点で晴れの舞台じゃないし。ああ、どんどん気が滅入っていくわ……。