S系御曹司と政略結婚!?
「……おい、聞いてんの?」
不意に囁かれた私は、勢いよく立ち上がった。そちらを見れば、いつの間にかこちらまで来ていたヤツと目が合う。
「耳元で話しかけないでよ!ていうか、いつの間にここに」
耳を押さえながら苦言を呈する。しかし、目の前の男は意に介さず、いい笑顔を見せながらまた距離を詰めてきた。
「へえ、オマエの弱点は耳か。今日の夜も楽しみだな……?」
とんでもないセクハラ発言をかましてきた。不意打ちに恥ずかしさが立ち込め、反論する言葉も見つからない。
ヤツから視線を逸らして俯きかけた瞬間、クイッと顎を引き上げられて見事にご対面。
「つうか、顔真っ赤だけど?たまには着物もいいんじゃねえの」
「な……っ!」
今度こそキレてやると意気込んでいると、スッと端正な顔がこちらに近づいてきた。
瞬きも忘れた私の唇はリップノイズの際立ったキスで封じられてしまう。
容易く奪われるこの不覚。しかも本日、3回目って……。
「ふ、ふざ」
「きゃーーー!」
怒りの大砲を打っ放す直前、突如として悲鳴を上げたヤツのお母様。
後ろを振り返れば、ニヤニヤ顔でこちらを見ている面々。どうやら双方の親に目撃されていたらしい。
「貴方たちってばもう、お家まで待てないの?ふふ、ラブラブねぇ。だけど和也、きちんと場を弁えなさいね」
私の本心など知る由も無いお母様はとても嬉しそうだ。……あの、息子のセクハラについて咎めませんか?
「まあ、いいじゃないか!早く孫の顔が拝めそうだし!」
「そうだね。華澄、私も楽しみに待ってるよ」
3人のイヤな期待がヒシヒシと伝わる視線を外し、ヤツを横目で見るとすでに“表”神野に切り変わっていた。