S系御曹司と政略結婚!?


「そうですね。皆さんの期待に添えられるように、全力で華澄さんを愛します」

じつに爽やかな笑顔で言い切った男を前に発狂寸前なのは私だ。冗談にも程があるっての!

「まあ、華澄さん頑張ってね!」

「元気が取り柄の華澄なら大丈夫ですよ」

「おお、こりゃあ楽しみだ!」

両親たちは再び盛り上がり、また私だけ置いてけぼりをくらって項垂れる。そこに肩を叩いたヤツが耳元でこう囁いてきた。

「安心しろ。俺は虐めるのが趣味でも優しさだけは兼ね備えてるから」、と。

「ばっかじゃない!?」

「こんなトコで誘ってんのか?オマエ場所くらい弁えろよ」

鼻で笑ってきた男に断固として否定したい。そもそも場所を弁えるべきはアンタの方でしょう!

だいたいコイツは私のこと大嫌いなくせに、どうしてこんなセクハラばかりするわけ……?

やっぱり今日も家へ帰るのが恐ろしい。あんなところに帰るのか……。


あれから現地解散となり、結婚生活を強いられる私にとっては“拷問”に等しい2人の新居に帰宅。

現在の私の住処は、セキュリティ機能万全のタワーマンションの高層階だ。

あれほど簡単にサインするなと言っていたヤツに脅され、書いてしまった婚姻届。それが祖父に渡り、知らない間に役所に提出されていた。

まだ結納を終えたばかりで、結婚式まで日にちはあるのに実家を出されて。あの荷造りが無駄にならなかったのが皮肉なもの。

ギリギリまで実家に逗留するつもりが、神野姓になった私に父も祖父も優しくなかった。苗字が変わった実感なんてないのに……。


「いつまで逃げるつもりだ?」

お風呂から出たヤツがタオルで頭を拭きながらリビングに姿を現した。バスローブで出歩くなって毎回言ってるのに、聞く耳持たずだ。

「……結婚はもう諦めた。でも、私自身はアンタを旦那様だと思ってない。よって、性欲処理の道具にされるだけは有り得ない!」

フンッとそっぽを向くと、そのまま一目散にバスルームに逃げ込んだ。


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