S系御曹司と政略結婚!?
シャワーを浴びてリビングに戻ると、ミネラルウォーターを飲んでひと息ついた。
それからすぐに自宅のインターホンが鳴り、馴染みのスタイリストさんが到着。挨拶もそこそこに私室へ案内する。
彼女の指示で化粧台に座ると、すぐさまヘアメイクに取り掛かった。
江川先生といっても、テレビの国会中継などで顔を知っているだけ。どういう繋がりなのかも全く知らない。
面識のない方の催しに出席するのも非情に疲れる。こんな考えの私が、会社を背負うことこそ間違ってるよね……。
「あの、華澄お嬢様……?完成いたしましたよ?」
「へ?あ、ありがとうございます」
遠慮がちな呼び掛けで鏡越しに視線を向けられる。居住まいを正して鏡を向き合うと、そこには別人が映っていた。
メイクの後で着替えた今日のドレスは、目の覚めるような鮮やかなブルー色。
一見シンプルなロングドレスだけど、ラインの綺麗さと生地の光沢感がお気に入りだ。
ヘアも綺麗に巻き上げられ、ドレスと宝飾品を際立てたスタイルに仕上がり、彼女の技術とセンスの高さに惚れ惚れ。
大変身と一緒に、ほんの少しの自信まで与えてくれる彼女にはいつも感謝している。
新色らしいこのアイシャドウも欲しいなと鏡を覗き込んでいたら、背後から声をかけられた。
「な、何でしょうか……?」
鏡台から立ち上がって振り返ると、正装を纏ったヤツと目が合う。
長い手足で着こなすタキシードも、オールバックにまとめた髪型も、整いすぎた顔をさらに引き立てる。
この時だけは標準装備のメガネを外し、“見た目だけ”は非の打ちどころがない。
ちょっとの自信もガラガラと音を立て崩れた。威力のあるその姿を、私は身じろぎもせず眺めてしまう。
「格好良すぎて惚れたか?」という勘違い発言で正気に戻ったけど。
ついでに、ドキドキとうるさい胸の高鳴りだって勘違いだと思う。