S系御曹司と政略結婚!?
あれこれ腑に落ちたところ、また鼻で笑ったヤツがこちらを見据えて口を開く。
「そっちは馬子にも衣装ってとこか。ちゃんとスタイリストに感謝しろよ」
まるで値踏みするようにドレス姿の私を上から下へと一瞥し、もはや分かりきったことを言っている。
ホントのことだけど、さすがに直接言われると機嫌だって悪くなってしまう。
「えーえー、言われなくても承知してますぅ!隣を歩く女が可愛くなくて不憫ですねっ!」
それに可愛くないと言われるなら、自虐したほうがまだ救われるというもの。
「オッ、認めるなんて珍しいな」
ハハッ、と軽快に笑うヤツが完璧だから余計に鼻につく。
もう何を言われても、馬耳東風の精神だ!
苛立つままにパーティーバックを掴んだ私は、愉悦に浸るヤツの脇を通り過ぎて自宅を出た。
エレベーターを降りてすぐ、駐在のコンシェルジュに見送られながらエントランスを潜り抜けた。
もちろんヤツは置き去りにしてきたので、まだやって来ない。思い出すだけで悔しい……!
中央玄関を出たところで、見慣れた車の隅で姿勢良く待つ人の姿を捉えた。
「おはようございます」
「西川さんおはようございます。それと、この前はありがとう。今日もよろしくね」
「とんでもありません、こちらこそお願いいたします」
今日の運転手は仕事の絡みもあるのか、西川さんのようだ。ドアを開けてくれた後部座席にひとり乗り込む。
このまま出発したいけど、ヤツも一緒に行くからそうはいかない。溜め息だって自然に出てしまう。
「へ?どうしたの?」
静寂の空間に、くすりと小さな笑い声が木霊する。静かに笑った西川さんに驚いて尋ねてしまう。
「……大変失礼いたしました。ですが、副社長がお元気といいますか、楽しそうなお顔をされていたので」
ヤツのせいで受難な毎日なのに、私って他人には能天気に映っているのかも……。