S系御曹司と政略結婚!?
不意に後部座席のドアが開き、私たちは意識を引き戻される。
間髪入れずに乗り込んできたヤツと隣合う私は、無言で座り直した。
それよりヤツが進入してから、この車の空気がピリピリしたような……?
「オイ西川、オマエの仕事まで俺にさせるつもりか?」
私の予感はどうやら的中したらしい。いつになくドスの効いた声色がそれを示している。
「も、申し訳ございませんっ!」
標的となった彼は声を震わせながら必死に謝罪している。
大の男をビビらせる恐ろしい威圧感だけど、今日は見過ごすことは出来ない。
「怒鳴る相手が違うわ。西川さんは私の話相手をしてくれたの。これも業務に入ると思うけど、違うの?
だったら、彼の業務を妨害した私こそ怒られるべきでしょ?」
仕事に忠実な西川さんを見てるクセに、あんなことで詰るのは間違ってる。
「あの副社長、私の落ち度ですから」
「いいえ、悪いのはこちらのほうよ。それに気にすること無いわ。
理不尽な理由で怒鳴られることくらい慣れっこだから、私は」
ヤツの罵詈雑言をスルーする機能が出来ているから、気に病むこともない。
『いつもみたいに容赦なく言えば?』と、口を開きかけて閉じた。
視界に捉えたヤツの表情が苦しげで、言葉にすることも憚られたのだ。
暫く重なっていた視線も、ふい、とヤツのほうから逸らされて傷つく自分がいた。
それから目的地に向けて出発した車内では会話もなく、重苦しさの漂う空気で心はさらに沈んでいった。