S系御曹司と政略結婚!?
巡り会い


「この度は御結婚おめでとうございます」

「ご丁寧にありがとうございます」

「美男美女カップルでじつに羨ましいよ!」

「……そんな、とんでもございません」

煌びやかな空間を賑わせるのは、大勢の着飾った政財界に関わりのある面々。

彼らと挨拶を交わす度、誉めそやしの会話がエンドレス状態となる。

おまけに入籍したばかりの私たちは、そんな狭い世界でさかんに持ち上げられる恰好のエサだ。


表情筋はフル活動で笑顔を浮かべ、声はいつもよりワントーン以上高めをキープ。何より、あくまで控えめな態度で。

会場入りしてから何度目かの“おめでとうございます”コールに、そろそろ寒気がしてきた。

ヤツは必死な私の隣で、不機嫌さもどこ吹く風なほど、じつに優雅で飄々としていた。

白々しいお世辞の数々も、そのどら猫もどきの仮面でサラリと交わしている。

確かに格好良い人だと思う。もしこれが素の穏やかな人であれば、この結婚にも少しは希望が持てたのかな……。

再び気合を入れると、表情を引き締めた私はヤツの隣でただ笑い続けていた。

この席での落ち度ひとつで、有川と神野の名に傷をつけることになる。そう、これはビジネスだから。


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