S系御曹司と政略結婚!?
その声で呼ばれた瞬間、すでにスイーツから意識も逸れていて、ゆっくりと後ろを振り返った。
やっぱりなんて思ったけれど、間違えるわけない。……忘れたくても忘れられない声だから。
対峙した人物はにこりと人懐こい笑みを浮かべ、「久しぶり」と言った。
「……光希(コウキ)」
どうしてこんなところに……?どうして再会してしまったの……?
立ち尽くす私の元に歩み寄りながら、また彼は微笑みかけてくる。
「元気だった?」
久しぶりに会った光希は、あの時よりずっと大人の雰囲気を漂わせている。
そんな感想を抱きながら自嘲してしまう。あれから3年が経てば当たり前じゃない、と。
「う、うん。そっちも元気そうだね」
「ああ、この通り」
当たり障りなく返すことに必死で、「そ、そっかぁ……」と紡いだあとの言葉が見つからない。
やっぱり気まずい……!これ以上、会話も膨らみそうになく、つい視線を逸らしてしまった。
「まあ、俺のこと許せるわけないか」
自嘲笑いを浮かべながら、こちらを覗き込んでくる彼とまた目が合う。当たり前だよ!と言えないまま。
なんでそんなこと言うのよ。私をあっさり捨てたのは光希、アナタでしょう……?
散々利用された挙げ句、不要物のように捨てられたあの時。無理やり人生を諦めたの、これは運命(サダメ)だと。
本音を言えば、やっぱり許せていない。これからも許したくないし、会いたくなかった。
だからといって、未だに許せないとは口にしない。余計に惨めになるし、私にもなけなしのプライドがあるから。
「……怒ってないよ。もう、昔のことだし」
捨てられた時も今も、裏切られた悲しみのほうが大きかった。それは言わず、愛想笑いを浮かべて誤魔化す。
「ホントか!?」
「う、うん。だから、気にしなくていいよ?」
久しぶりに見た彼の笑顔に惹き付けられないように、そう自分にも言い聞かせていた。