S系御曹司と政略結婚!?
「あー、本当に良かった。……あんな風に華澄のこと傷つけて別れたこと、ずっと後悔してたんだ」
「ううん、もういいから!本当に気にしないで」
否定して無かったことにしようとすればするほど、目の奥にツンとした痛みを感じてしまう。
「そ、そろそろ行かなきゃ。光希も元気でね」
だから、用事を思い出した素振りでこの場を離れることにした。
ここで立ち話をしていても何の意味もない。もう苦しいから、少しでも早く逃げたい。——さよならも込めて立ち去ろうとした。
彼のそばを通った瞬間、グッと腕を掴まれて。振り向けば鋭い目をした彼に捕われてしまう。
そのまま強い力で腕を掴んだまま、出入り口まで一直線に進んで行く。
「ちょっと、離して……!」
「華澄が話を聞かないからだ!」
高いヒールを履き、ロングドレスの私は何度も足がもつれそうになって。振りほどこうとしても男性の力には敵わない。
やがて大きな観音開きのドアを通り過ぎてしまい、行き交う人もほぼいなくなった。
「だ、だったら、今ここで聞くからっ」
話すことはもうないけど、この状態の彼とふたりきりなれば何をされるか分からない。
恐怖心から必死で声を上げ続けていたら、ようやくその足を止めてくれた。
至近距離で対峙した瞬間、今だ……!と目の前の弁慶の泣きどころを思いきり蹴り上げる。
女だからと油断して光希は不意の攻撃に顔を歪め、掴んでいた腕を放した。
すぐに距離を取った私は、今も苦痛に歪む彼を冷たく見ながら口を開く。
「過去についてとやかく言わないで。もうすべて終わったことよ。……それに私、結婚してるの」