S系御曹司と政略結婚!?


部屋に通じるエレベーターにふたりで乗り込むと、静かに上昇し始めた。


「……おい」

頭上から聞こえた一段と低い声に驚く。恐る恐る彼を見やる私はぞくりと背筋が凍る思いだ。

もしかして、朝に私が楯突いたことをいまだに根に持ってたとか?

真顔でこちらを見下ろしてくるから、「な、なに」と思わず緊張する。

「あれが元カレ?」

耳に届いたのは全くの予想外なもので、こちらは怪訝な顔もしたくなる。

だから、ヤツの異変を見落としていた。紡ぎ出したその言葉に戸惑いが隠れていたのに。

「さっきは困っていたのでどうもありがとうございます。でも、関係ありませんから!ていうか離して!」

なおも上昇を続けるエレベーターの中で逃れようとする。だけど、ヤツの腕の力が余計に強くなった。

「結婚しといて関係ないはないだろ?妻の交友関係ぐらい知ってて当然だと思うが?」

「はああ!?」

顔を近づけてきたヤツが至近距離で正論を並べ立てた。

ちょっと待って。それは一般的な夫婦間の場合は、だ。

仮面を付けない状態で私を奥さん扱いをしたことが一度でもあった?それどころか、人として扱ってないよね?

こういう時だけ、結婚してるとか妻だとか、意味のない関係を肯定しないでよ……。


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