S系御曹司と政略結婚!?
爽やかな彼は学部の同年の中で圧倒的な人気を誇っていて。そんな人から声を掛けられた私は、思わず固まってしまった。
こちらの動揺には気づかないのか、書庫にそっと凭れた彼が笑顔で話し掛けてきた。
「いつもここに来てるよね?」
「え、ええ。学内では一番の蔵書量だから」
どうにか言葉を発せたものの、その声は緊張に満ちており、頼りな気に震えていた。
「へー研究熱心だね。俺なんて暇つぶしに来てるようなもんなのに」
自虐して笑う表情にも惹き付けられて、目が離せなくなってしまう。……ここ数年はこんなことなかったのに、と。
「そ、そんなことないよ」と、俯いてそれらをひた隠す。
「名前なんて言うの?あ、俺は文学部3年の」
「——知ってる。森口光希くんでしょ?」
彼が自己紹介するのを遮り、「今年のミスターを知らない人はいないよ」と重ねる。
「担ぎ出されただけだから、あれ」
「でも、コンテストの前評判も優勝候補筆頭だったよね?」
同い年なのに大人びた笑みと優しい視線を向けられると、心の早鐘を打つ速度は増していった。
その辺のアイドルや俳優より格好良くて大学のミスターの称号を持つ人気者。
勉強ばかりしていたつまらない私でも知っていたほど彼は有名だったのだ。
「それは光栄です」と、謙遜をしないところは手慣れていると感じたけれど。
「どういたしまして、同じく文学部3年の有川華澄です」
「なんだタメじゃん!華澄でイイ?俺のことは光希でいいよ」
「……どうぞお好きに」
甘い顔立ちに人懐こい笑顔。それらに目を奪われた時点で、彼の罠に掛っていたとも知らずに……。