S系御曹司と政略結婚!?
優しい瞳にあたたかい手、あの柔らかな笑顔だって。そのどれもが嘘だった事実に苦しんできた。
それでも今日、再会して思ったのは別れて良かったなということ。この胸の痛みもいつか消えるはず……。
「はあ……光輝、どうして」
真っ白な天井をぼんやり見ながら、“私を騙したの?”と呟きかけたその時。
「光希ってさっきのヤツか?」
「……うん、……って!?」
独り言になぜかツッコミが入り、私は寝転んでいたベッドから勢いよく起き上がる。
そのまま扉のほうに顔を向けると、タキシード姿のままで悠然と立つヤツが室内に侵入しているではないか。
「どうしてここにいるのよ!?」
その光景に目を丸くした私は、口を金魚のようにパクパクしながら叫ぶ。
「まあ、夫婦だし?」
疑問符のイヤミな口調に苛立ち、「はあ!?」と眉根を寄せてしまう。……夫婦ってよく言うわね!と。
「て、ていうか、ここは私の部屋っ!鍵だって掛けたのに」
「やっぱ馬鹿」
プライバシーの侵害男は鼻で笑いながらベッド脇まで歩み寄り、今も座り込む私を見下ろしてきた。
人の質問すら答えずに馬鹿呼ばわりとか、ふざけんなあああ!
「すぐ表情に出るのもガキだな。たとえここがオマエの部屋であってもすべて俺のもの。家中のマスターキーを持つのは当然だ」
そうして、何本も連なったキーの束を中指にかけ、くるくると回し始めた。
チャリチャリ金属の擦れる音が響く中、無駄に整った顔でほくそ笑むヤツはやっぱり悪魔だ。
「……って、ちょっと待った。さっき、マスターキーって言ったよね?私が貰っているのはスペアキーってことなの?」
「ああ、どっちも同じだろ」
「同じじゃないっ!しかも、ここと玄関の鍵しか貰ってないのはおかしいでしょう!?」
唯一の安全地帯だと思い込んでいたのは間違いだった。鍵の意味だってゼロじゃない……。