S系御曹司と政略結婚!?


捕食者の顔つきをした悪魔に、じりじりと追いつめられた私はベッドから抜け出そうと後ずさり。

しかし、着ていたロングドレスが足下で絡まった。さらに艶やかな生地が肌の上を滑り、ついには身動きが取れなくなる。

不格好な人魚姫(図々しいけど)のように、無様に慌てふためく瞬間を捕えられてしまった。

「ねえ、離して……」

「動くな」

短く呟いたヤツは私の腰をグッと抱き寄せ、その腕の中に収めてしまう。

そして名前を呼ばれて顔を上げると、あの妖しい瞳と視線が重なった。

ヤツの爽やかな香りとあたたかな腕の中、さらにこの距離感が緊張を高めていく。

濡れたような瞳に囚われた私はただ息を呑み、抵抗することなんて忘れていた。

暫くして体勢を変え始めたヤツは私の身体をそっと横たわらせる。

仰向けになった私の視界に広がるのは、優しい手つきで頬を撫でるヤツの姿。

まるで壊れ物を扱うようなその手つきでぞくりと粟立つ身体。

“S”の本性は一体どれなの?この行動の意味ってなに……?理由が分からない私は調子が狂ってしまった。

ギシリ、と静かな室内にベッドのスプリング音がまた鳴り響いた。

その瞬間、若干の重みをもって上に乗られた私は目を丸くする。


< 53 / 123 >

この作品をシェア

pagetop