S系御曹司と政略結婚!?
私たちの婚約発表と同時に、ヤツは私専属の秘書から新社長に就任した。
本来なら役員会や株主総会で反発をくらいかねない、前代未聞の大抜擢だ。
誰か反対してくれないかな、と甘い期待をした私のほうが浅はかだった。
海外帰りのいけ好かないヤツの有能ぶりを忘れていたのだ。——頭の切れる嫌味なエリートだと。
私以外には超猫かぶりの世渡り上手。ムダに整った顔に、モデル並みのスラリとしたスタイル。ヤツを助けるものが多くて不公平なんですけど……!
それより何より、おじい様や父を咎めるような無謀な人こそ皆無。この度の人事で父は会長職に、祖父は監査役となった。
社内は婚約の件も相俟って歓迎ムード一色で、私ひとりが滅入っていただけ。
そういうわけで、私たちはほぼ四六時中ともにいるようなもの。
もちろんヤツの職場は社長室に移ったし、出張や付き合いなどで不在の時が多くなったけど。
ヤツとはどう避けてみてもどこかで会うことになる。不毛なことに気づいたせいで沈みかけるが、名案がひらめいた。
金輪際ヤツと寝なければいいんだ、と。この気持ちだって封印してしまえばいい話だと。
床をロボット掃除機が綺麗にしてくれる間に、リビングの掃除を終えた私は冷蔵庫の扉を開けた。
冷蔵庫の中には飲み物とヨーグルトと卵しか入っていない。この頃、予定続きで買い物に行けなかったからだ。
予定のない日以外、ヤツは自宅で食事をするので、食料危機は私の危機に繋がる。これは避けなければ。
慌てて着替えて自宅を出ると、足早に目的の場所に向かった。