S系御曹司と政略結婚!?
クラクションを鳴らした黒色のジャガーを運転するのは、紛れもないヤツだったから。
その場に立ち尽くす私の口からは、「な、んで」と言葉にならない声が漏れていた。
「人がせっかく迎えに来てやったんだけど」
パワーウィンドウ越しに覗くヤツはいつもと変わらない。
来てやったって、……こちらは頼んでませんが?さっき無駄に怒られたので返事もしない。
すると運転席のドアを開けてきたヤツは無言で私から手の荷物を奪っていく。
驚いて気づかなかったけど、よく見るとスーツ姿なのでどこかに所用で出ていたらしい。
ふたつのエコバッグを後部座席に載せ終えたヤツが振り向きざまにこう言った。
「早く乗れ」
コクコク頷いた私は急いで助手席へと乗り込んだ。
すぐさま車のエンジンを加速させると、休日で賑わう街並みを通過していく。
その間ずっとヤツは無言でハンドルを握っているので、私も黙り込んでいた。
きっと帰宅して私がいなかったから、そのまま車に乗って迎えに来てくれたはずなのに。
一度タイミングを外しちゃうと、今さら素直にお礼も言えなくなってしまう。
だけど、どうして迎えに来てくれたの?こんなこと初めてなのに。
人形や飼い犬としか思っていないんだよね?どうして今になって優しくするの?貴方の気持ちが何も見えないよ……。