S系御曹司と政略結婚!?
たったひとつを望んでみても、それはどうやっても手に入らない。
「……華澄?」
呼びかける声とともにカチャリと、金属とお皿が重なる音が鳴った。ヤツが食事をする手を止めたらしい。
でも、視界が揺らぎ始めた私は、瞳から溢れる涙を隠すために俯いたので分からなかった。
こちらのほうに来たヤツは、「どうした?」と私の傍に屈んで尋ねてくる。
いつもは絶対に見せない優しさが癇に障り、顔を上げた私はヤツを睨みながら叫んだ。
「私が嫌いなら、嫌いって言ってよ……!」
「……は?」
突飛なこの発言にはさすがのヤツも言葉を失ったらしい。
それでも、酔っ払いの口は一度開いてしまうともう止まらなかった。
「いつもっ、いつも、怒られてばかりだ、し……っ、超がつくほど、最低なのにっ!
ずぅっと、ずーっと嫌いだと思ってたのに……なんで私、好きに、なっちゃったのよぉ……っ」
零れ落ちていく涙に構わず、とうとう思いの丈をぶつけてしまった。
ダイニングルームはそこで水を打ったように静まり返ってしまう。
一世一代の告白をしても、ヤツは何も言ってくれない。これが答えなのだと、ズキズキ胸が苦しくなる。
「やっ、ぱり、お金目当てなんだぁ……。あ、あなたもっ、こっ、こーきと一緒なんでしょ……」
泣きながら紡ぎ出した言葉に自分で傷つき、もっと涙が溢れてしまう。
そこで頬に振れる手の感覚に気づく。目を見開くと、流れ落ちる涙をそっと拭ってくれるヤツの指先が視界に入った。
「勘違い女」そう呟いたヤツは、どこか困ったような笑みを浮かべていた。